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「胸糞わるいなぁ……!」
近藤が言った。

「セ・ン・セ・イって言ってもいろんなタイプがいるんだね。
 先輩が一緒でなかったら、オレはどうしていたことか、考えただけでも嫌な気分だなあ!」

井上が言った。
「井上、お前は見かけと違って短気だから心配したぞ。
 まっ、お前でなくてもあのセンセイでは頭にくるさ。
 井上、この学校にもいろんな先生がいるが、あのセンセイから比べたらまだマシさ」

自転車で走る二人は、早くも自分たちの高校の側を通っていた。
「先輩、オレはこの学校が好きだ。
 先生も好きだ」
「ほう、どうして?」

近藤は校舎を見上げながら井上に訊いた。
「この学校には自由があるもの」
「ジ・ユ・ウ?
 自由が?」
「生徒の自由を認めてくれている。
 だからオレたちは同人会も作れたし、こうやって生徒会と美術部の協力を得ながらまんが展を開催できるんだ」
「それは井上たちの実行力だよ」
「でも、提案をすればそれに応じる土壌がこの学校にはあるから。
 うちのおじいちゃんが言っていた。
 椎野学園は初代理事長椎野詮(せん)先生時代から生徒には自由に伸び伸びとさせていたって」

校舎を過ぎて立町通りをとおり、松川橋の手前の土手を南に自転車は走り、住江橋を渡った。
そしてその橋のすぐ側にある第一中学校に行った。

第一中学校は校舎は古いが、戦後アメリカ進駐軍が使用していただけあって、いまもその建物には歴史を漂わせる雰囲気を充分に持っていた。
井上は美術部顧問を呼び出すのに氏名でお願いをした。
饅頭がしなびているような顔をして、その顧問教師が現れた。
その名は「今泉清先生」だった。
井上と近藤が一通り話を終ると、井上から今泉先生に話を切り出した。
「今泉先生、覚えていますか?
 あれは一昨年(おととし)でしたが、先生が中条病院に入院されていた時に、帰宅途中のぼくが病院前を通ったら、先生がぼくを呼び止めて、ぼくが持っていたスケッチブックを見せてみろと言い、絵を一枚一枚丁寧に批評してくださいました」
頭を傾げて考えていた今泉は、しばらくしてから、
「おお……おっお覚えている、覚えている。
 石膏デッサンと茶色と紫色の濃い静物画や風景画がだったなあ。
 あん時の四中生がお前かあ!?」

少しせっかちな言い方の今泉は、細い目を一層細くして井上に笑顔を返した。
「まんが展とはおもしろい企画をしたな。
 よし、このポスターは預かった。
 貼っとくからな!頑張れよ!!」

真っ黒い雲がモクモクと空を覆ってきた。
ゴロゴロと雷の音が強くなってきた。
今泉先生の励ましが井上たちの嫌な気分をかき消していた。

(2006年6月8日 木曜 記)



(文中の敬称を略させていただきました)
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