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翌日、生徒会副会長の近藤重夫と井上はじめは、各中学校にまんが展のポスター掲示をお願いに歩いた。
ふたりは婦人用自転車に乗って、まずは井上の母校である第四中学校からスタートした。

国道十三号線沿いにある第四中学校には、井上の知っている先生たちが在籍しているから、まんが展の企画そのものを喜び、そして励ましてくれた。
依頼する先生は美術部顧問の教師であるが、生徒会の副会長が直々お願いにくるほど、このまんが展は新しい文化活動と捉えて、生徒会も全面的にバックアップしていることを近藤は強調するのだった。

今日の暑さも半端ではない。
盆地という地形のせいで三十度近い温度がなかなか下がらない。
米沢西駅に近い第三中学校に行くころは、ふたりの背中は全面に汗がおおいつくし、汗はランニングシャツと白い半袖のワイシャツから表面にあふれ出てくるほどだった。

正面玄関から上がって、事務所前で立って待っていた。
あいにく美術部の顧問教師はいなかった。
するとメガネを掛けた猫背で、がに股の五十歳代後半に見える男がズカズカと現れた。
丁寧に挨拶をする井上らに向かって、
「なにや、おまえだぢ(どうしたんだ貴様ら)」
と乱暴な言い方で寄ってきた。
井上と近藤はびっくりした。
ふたりは顔を合せて、
「これが先生か?」
と目で話した。
井上と近藤が交互にまんが展の説明をして、ポスター掲示をお願いすると、
「マンガだべ、こがいなもの生徒さみせらんにッ(こんなものは生徒には見せられない)!」
と語尾を強めて吐き捨てるように言った。
さすがにこの先生の態度には井上も近藤も驚いた。
井上は反抗するようにこう言った。
「先生、マンガは今では文化として、表現のひとつとして注目を集めています。
 特に中学生の多感な時期に読むマンガの影響は大きいと思います。
 先生、ぜひ先生も鑑賞に来てください。
 すばらしい作品ばかりです」
「オレはマンガは嫌いだ。
 冗談じゃねえ。
 マンガなんてとんでもねえぞ!
 フン!!」

井上が反論しようとした時に近藤は井上の腕をつかんで言葉を止めた。
井上は先生がマンガに対して偏見を持っていることではなく、吐き捨てるような乱暴な言い方には黙っていられなかった。
悔しさが井上と近藤の心を襲った。
校門を出ると空は曇っていた。

「井上、あまり気にすんなよ。
 いろんな人間がいるからいろんな先生もいる。
 生徒もそうだ」

近藤は自転車をふみながら井上に言った。
空からはゴロゴロと雷の音が遠くから聞えてきた。
井上の体中に汗が噴出してくる。
その汗を拭おうとはしなかった。
それよりも怒りと悔しさで無口になって自転車のペダルをふんだ。
近藤も黙って自転車を走らせた。

(2006年5月16日 木曜 
 2006年5月21日 日曜 記)



(文中の敬称を略させていただきました)
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