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暑い暑い日が続く。
夕立も多く、動かなくとも汗がシャツをびしょびしょにした。
まんが展の準備も次々に進んでいく。
特に、美術部と生徒会の有志らの手助けは、まんが展の大きな戦力になっていた。

井上の自宅には、次々とまんが展PR用のポスターが送られてくる。
それらのポスターは、みんな米沢漫画研究会や山形漫画研究会、そして山形漫画予備軍の会員の手作りだった。
それぞれに工夫がしてあり、個性豊かなポスターが揃っていった。
そんな中でも、山形漫画研究会のたかはしよしひでからのアイデアとPR作戦は奇抜であった。

「もしもし、オッ、井上センセイ!?
 たかはし だっけっス。
 ポスターを今日発送したがら、そのポスターは書店や学校関係に持ってってけろ。
 んだよ。
 それ用に作ってあっからて」

と電話で指示があった。

翌々日にたかはしが作った「書店と学校用ポスター」が届いた。
包装を解いてみて井上はビックリした。

その「書店と学校用ポスター」は、マンガ雑誌のトビラ(カラーの表紙)を利用したもので、特に百万部を突破した「週刊少年マガジン」の「あしたのジョー」や「巨人の星」、虫プロ商事の「COM(コム)」の「火の鳥」、「ジュン」などの人気作品を惜しみなく全面に出して作ってあった。

ポスターの作り方は、大きな模造紙に「山形まんが展」と日時会場をカラーのマジックインク書き、紙面の正面にトビラを斜めに貼り付けるのであった。
中にはトビラを手でやぶいた跡があり、やぶき散らかした状態で貼り付けてあった。
その工夫が意外にも新鮮な効果をもたらした。
また、トビラそのものに直接ポスターカラーで文字を書いてあるものもあった。

当時は印刷でのカラーポスターがようやく普及し始めていた頃だけに、たかはしが作ったトビラを応用したカラーポスターは目立ち、強力な印象を与えた。
注目度という点では、人気マンガのトビラで注目を集める作戦は、他の会員の手作りポスターでは味わえない迫力があるだけに、
「これを『書店と学校用ポスター』に貼るとは考えたもんだなあ。
 学生や一般人も絶対に注目するポスターだ。
 さすがたかはしセンセイだ」

井上はたかはしの発想の豊かさにあらためて感心をした。


ポスターを各所に張り出す仕事は、美術部のメンバーが引き受けた。
展覧会時に数回行っていたので依頼先がどんどん出てくる。
「彩画堂に米沢楽器店、吾妻スポーツ店、米沢書房、それから…」
宮崎賢治と鈴木和博が紙に書いていく。
美術部の林部長が、さらに頭をひねって店や掲示する場所を述べた。
傍に立っている二年生の田中富行が思い出したようにまたカバーをした。

井上は、たかはしが作った「書店と学校用ポスター」を早目に張り出すことを提案した。
生徒会の副会長・近藤重雄が率先して学校回りを引き受けた。
井上も同伴して市内の中学校と高校を三日間で完了することにした。
「井上、他校にはまだまだお前たちの主旨を理解してくれる者は少ないと思え。
 いいか、オレが生徒会役員としてお願いするから主旨はお前が述べるんだぞ」

近藤の申し出はありがたかった。
井上は地元マスコミを回ってみて、その反応のなさを意外に感じていたから、近藤の考えはもっともとだっだ。

中学校も高校も夏休みまで日にちが迫ってきているだけに、さっそく明日から学校を回ることにした。
宮崎らも明日から三日間でポスター掲示を終ることにした。

ゴーッと大粒の雨が学校の屋根を叩いた。
「おっ、夕立だぁ。
 最近多くないか?」

近藤が言った。
屋根の低い生徒会室を、いっそうの蒸し暑さが襲っていた。

(2006年5月14日 日曜 記)



(文中の敬称を略させていただきました)
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