放課後の職員室に入った井上はじめと鈴木和博、そして宮崎賢治は、すぐに美術部顧問の土肥昭の席に行った。

「土肥先生!相談があります」
「お願いがあります」

「おうっ!どうした三人揃って、何だぁ?」
「先生、土肥先生。漫画研究会の会長になってください」
「米沢漫画研究会を作りたいんです」
「土肥先生、これを見てください。
 マンガ同人会の肉筆回覧誌です。
 こんなものをオレたちで作りたいんです」


土肥は分厚い山形漫画研究会の肉筆回覧誌「ステップ・三号」を鈴木から受け取った。
「すげえ〜重いな」
そう言って土肥は脚を組み、その上にステップを載せて一ページずつ丁寧にめくった。
土肥も初めて見る肉筆回覧誌だった。


職員室の四人に西日が射した。
井上は眩しくって背を西向きにした。
井上の影が土肥の身体を包んだ。
その瞬間に土肥は、
「わかっだ、いかんべ(いいだろう)!」
と一言で返事をした。


「わーっ」
と三人は歓声を上げた。
「土肥先生、ありがとうございます」
と井上が言った。
「はずめ(はじめ)、お前たちの魂胆というか企みは何だ?
 オレを会長にするんだから教えろ!?」
土肥は笑いながらそう言った。
三人が自分を会長に願うのにはそれなりの理由があるだろうと察していたのだ。
鈴木は先ほど井上が考えた案を述べた。
「機関誌などを印刷するためにどうしても学校の器材を使わせてもらいたいんだな」
と、土肥は三人に確認して、こう言った。
「お前たちの考えはよくわかった。
 そこで相談だ。
 これはオレの考えだが、お前たちの漫画研究会は正確には学校以外の組織と見られるよな?
 そうだろう?
 マンガを描く少年少女の全国組織だろう?
 学校内では美術部の管轄下としてくれないか。
 そのためには学校のあらゆる行事や催しに漫画研究会の作品を展示しろ!
 印刷の紙代位は自分たちで経費を調達しろ、なぁ……出来るか、いや出来るだろう?」
「わかりました。そうします」

鈴木はすぐに反応した。
宮崎も頷いた。
「中途半端で放り投げるなよ!?
 いいな?
 オレが会長だから、オレの顔を潰すなよ!!
 ヒッヒッヒッヒッヒッ……」
土肥は大きな声で笑って、三人の肩を次々に叩いて励ました。

三人は部室代わりの道具室にいた。
多少興奮気味の井上と鈴木ははしゃいでいた。
その傍で宮崎は「ステップ・三号」を見ていた。
宮崎賢治は井上や鈴木と同じ第四中学校の出身だった。
無口で大人しく、鈴木和博とは対照的な性格だった。
鈴木が企画をすれば、宮崎はそのなかみを慎重に検討し、それなりの意見を述べるのだった。
井上は二人の意見を聴き比べながら判断するのだった。
だから井上にとっては鈴木同様に宮崎は貴重な存在だった。

「井上、会員はどうやって集めるつもりや?」
宮崎が訊いた。
「校内でも募集するが、そんなに期待は出来ないだろう。
 オレはコム(COM)に募集の記事を掲載してもらおうと考えている」
井上が答えた。
「山形県内では山形漫画研究会や庄内の各漫画研究会があるから無理だろうしなぁ……」
と、鈴木が言った。
「市内の高校はどうだべなあ?」
井上が言うと、もう外は暗くなっていた。
中庭では相撲部が練習を終る挨拶をしていた。

(2006年4月25日 火曜 記)



(文中の敬称を略させていただきました)
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