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井上はじめらは早速米沢漫画研究会会員募集のポスターを作った。
大判用紙に色マジックインクで得意のオリジナルのマンガ人物(キャラクター)を描いた。
井上は「アングラくん」を、鈴木和博は自分をモデルにした「学生服のカズくん」を描いて、大きな文字で「米沢漫画研究会・会員募集!」と書いた。

「このポスターをどうやって各高校に掲示してもらうんだ?」
宮崎賢治は井上に言った。
「各学校の生徒会の役員に相談して生徒会の承認印を押してもらい、生徒の自由研究の一端としての研究会会員募集にしてもらおう」
と井上が言った。
「そうはうまくいくか?」
慎重派の宮崎らしい問いに井上はいつも対策のヒントになると歓迎していた。
「うちの高校は大丈夫だろう。
 あとは女子高と興譲館高はなんとかなるな!
 女子高には中学の同級生が新聞部をしているし、今度は生徒会の役員になるっていってた。
 興譲館も美術部の綿貫先輩か鈴木先輩に持ち込めばなんとかなる」
「問題は東高と商業高かな。
 コネはあるか?」

と鈴木が言った。
「いや、生徒会には親しい人はいない」
井上が言った。
「やっぱり美術部だなぁ。
 商業高には吉田部長がいる。
 東高もなんとかなるだろう。
 忘れていた、工業高の美術部には中学校の時の桑野先輩がいるじゃないかぁ」

宮崎が言うと、二人も頷いた。


井上はお願いの文書を認め(したため)た。
三人で手分けして各学校を回ることにした。
井上は真っ先に興譲館高校に出掛けた。
美術部の綿貫先輩は三学年であったが、春に興譲館高校の体育館を会場に「県高等学校美術展」があったときに、準備にあたった井上らと意気投合していた。
綿貫は快く引き受けてくれるだろうと期待していたが、意外な答えが返ってきた。
「悪いなあ……実は学生運動で、学校側はピリピリしているんだ。
 一応、生徒会には掲示許可を取るけど他校のことになるとどうなるか、ぼくも生徒会とは正直うまくいっていないからね」

井上は綿貫が言っている意味がわかるようでわからなかった。
それでもポスターを預かってくれた。
綿貫の
「校外組織の会員募集は左翼運動の傀儡(かいらい)と捉えられる」
というむずかしい言葉は「政治的なこと」として井上の胸に残った。

井上が次に向かったのは工業高校だった。
工業高校は上杉神社のすぐ側にあった。
第四中学校の一学年先輩の桑野博が工業高校の美術部で活躍をしていた。
桑野を尊敬していた井上だった。
一方、桑野もいつも井上を見守ってくれていた。
高校生になってからも桑野は井上との交流は続けてくれた。

「いよいよ漫画研究会を作ったのか。
 井上は絵も上手だがマンガはもっと上手だもんな」

美術室を訪れた井上を桑野は温かく歓迎してくれた。
「井上、新しいことに挑戦することはすばらしいことだ。
 オレも親父に習って日本画を始める。
 油絵も中途半端だといわれるかもしれないが、オレはいずれ日本画にいくつもりだ。
 その過程のひとつが油絵だ。
 井上、お前もそうだろう?
 絵画から入ったかもしれないがお前はいずれはマンガにいくとオレはみていた。
 頑張れよ!!」

そして会員募集のポスターを受け取り、井上に握手をも求めた。
「井上、成功を祈る!」
どこか青春ドラマっぽい桑野に感激しながらも井上は顔を赤らめた。


井上は高校生になって半年が過ぎようとしていた。
ここにきて大人の社会が井上を包み込んできたように感じた。
井上は夕日を前に受けながら上杉神社に向かうのだった。

(2006年5月2日 火曜 記)



(文中の敬称を略させていただきました)
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