七月十三日月曜日になると流石に井上も期末試験が気になった。
高二でクラス再編成になってからは、井上はテストの成績はよくても成績順番が下がっていたからだ。
三組は進学希望者も多いし、余裕で授業を受けている者が目立つのだった。
「こうしちゃいられないなあ」
- と井上は少しでもテスト勉強をするよう自分に言い聞かせた。
「今日はまんが展の準備は打合せだけにしよう」
と、宮崎賢治や鈴木和博に言って、放課後は小一時間位で解散した。
井上が自宅に帰ると祖母のふみが大きい封筒を井上に渡した。
「はじめ、中学校の同級生のほら、なんたっけなあ?
ああ、名前が出てこない、ほら、ほら……」
と、眉間にしわをよせてふみは名前を思い出そうとしている。
「あの娘が持って来てくれたんだよ。
あの九里にいった娘だよ」
(九里学園・くのり=当時米沢女子高等学校)
「ああ、み・ち・え ちゃん?だろう」
と井上が言った。
「んだんだ(そうだそうだ)……、その娘だよ」
封筒を開けてみた。
- すると画用紙に描いた少女マンガのカラーイラストが三枚入っていた。
ひと目見て井上は驚いた。
- 「すごいなあ〜っ、こんな画力!見たことないよ、こんなに上手いマンガは初めてだ」
- 井上が唸るのは無理がなかった。
そのマンガは少女マンガ風であったが、画面いっぱいに伸び伸びとした線で描かれており、いままで見たマンガの原稿とはまったく違い、デッサンや構成の面でも完成度の高いマンガであった。
イラストを畳に置いて、正座をしてジッと見ていた。
傍ではふみもそのイラストに見とれていた。
何分かが過ぎた。
「たいしたもんだねぇ!
感心するよ」
そう言ってふみは立ち、台所に消えていった。
井上は封筒に作品を仕舞おうとした。
すると封筒の奥に手紙を見つけた。
その手紙はこのイラストを持って来た美智江からだった。
はじめくん、元気ですか?
まんが展の準備で忙しいでしょう?
先日、頼まれたポスターを早速校内に掲示しました。
すると、それを見た一年生の安藤悦子さんがマンガを持って来ました。
『これを見てください』というのです。
私はマンガのことはわからないし、マンガ展を開く人は私の中学校の同級生のはじめくんであることを伝えました。
とにかく上手なマンガなので、私が責任を持ってはじめくんに渡すことを約束しました。
安藤さんの自宅の住所を書いておきますから、彼女に返事をしてください。
はじめくん、女子高ではあのまんが展のポスターを見て反響がありますから、きっとたくさんの人が鑑賞に行くと思います。
私も行きます!
がんばってください。
「そうか!一年生の あんどうえつこ さんかあ?
すごい人がいるもんだなあ。
よし彼女を米沢漫画研究会の会員にしよう」
その夜、井上は電話でたかはしよしひでにこのことを報告した。
「米沢漫画研究会に有望な少女マンガ家が登場して、おめでと〜うございま〜す!
それは作品を見せていただくのを楽しみにしてったなね(います)。
井上センセイの会にはイマイチ実力者がいないので、心配していたのでしたぁ。
早く見たいですねぇ」
井上は多少興奮気味に話したこともあり、たかはしはきっとすばらしい作品だろうと期待を寄せるのであった。
井上は勉強もそこそこに安藤悦子に手紙を書いた。
すばらしいイラストですね。
すぐに連絡をください。
あなたを会員に迎えたい。
電話は23−○○○○です。
この安藤悦子のカラーイラストは、札幌市のモシモシカメヨこと名取裕子と共に山形まんが展の中では一際目立ち、会場を明るく彩るのであった。
- (2005年12月7日 記)
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