あの日から数日が過ぎました。 あれ以来クラスでは太志(ふとし)くんは『漫画大将』と呼ばれれる人気者になりました。 太志(ふとし)くんは根っから陽気な性格のようです。 一方、それとは正反対に、ボクは人と交わるのが大の苦手なのです。 ノートにはすでに「アトム」や「鉄人28号」、「エイトマン」などたくさんの漫画キャラクターの顔が描かれています。 ボクにとっては、「七色仮面」「ナショナルキッド」などで人気漫画家だった一峰大二先生に送った初めてのファンレターの返事としていただいた直筆の「ナショナルキッド」のアップの顔が描かれているハガキが大切な宝物で、いつも自宅の棚に飾っては時折見ていました。 ハガキの絵は一見印刷物のように見えますが、実はペンを使い、墨か黒インクのようなもので描かれています。 家には黒インクなんてなかったので、父の使っていた青インクでペンを使って書いてみました。 ボクが本格的に墨汁とペンで書き始めたのは、中学生になってからですから、まだ先のことになります。 やがて、昼休みを終えて、太志(ふとし)くん達が教室に戻ってきました。 ボクの脇の自分の机に腰を下ろした太志(ふとし)くんは、大汗をかいています。 「いいよ」 太志(ふとし)くんは、ボクのノートをパラパラとめくって描いた絵を見ていました。 ボクはまんざらでもないような表情をしました。 「んだげんとよ(だけどよ)、なしてみんなの顔は同じような方向を向いでんのや?」 思いもよらない指摘でした。 「人って、色んな所を見でっど思うんだげんと・・・」 いわれてみれば、確かにどのキャラクターもポーズは違っても、左方向を向いているのです。
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