昭和漫画少年時代


漫画の似顔絵

画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます

あの日から数日が過ぎました。

あれ以来クラスでは太志(ふとし)くんは『漫画大将』と呼ばれれる人気者になりました。

太志(ふとし)くんは根っから陽気な性格のようです。
転校生とは思えぬほどたちまちのうちに級友達にとけ込みました。
昼の休み時間などは、暑さに負けずに所狭しと外で遊び回っています。
もっとも、体格も良いので、誰もいじめたり出来なかったのかもしれません。

一方、それとは正反対に、ボクは人と交わるのが大の苦手なのです。
まばらになった教室で自分の机に座り、雑記帳のような帳面(ノート)を取り出します。
いつものようにそこに鉛筆で漫画の似顔絵を書き始めました。
前年に「高校三年生」(兵灯至夫作詞、遠藤実作曲)が大ヒットしてから、次々と舟木一夫の歌がヒットしていたので、ボクも自然とその鼻歌を歌いなから書き始めました。

ノートにはすでに「アトム」や「鉄人28号」、「エイトマン」などたくさんの漫画キャラクターの顔が描かれています。
「七色仮面」「まぼろし探偵」「月光仮面」「少年ジェット」「快傑ハリマオ」などといった何年経っても好きなキャラクターも節操なく描いています。

ボクにとっては、「七色仮面」「ナショナルキッド」などで人気漫画家だった一峰大二先生に送った初めてのファンレターの返事としていただいた直筆の「ナショナルキッド」のアップの顔が描かれているハガキが大切な宝物で、いつも自宅の棚に飾っては時折見ていました。

ハガキの絵は一見印刷物のように見えますが、実はペンを使い、墨か黒インクのようなもので描かれています。
光の具合によってはベタの塗りムラがわかるのです。
当時はまだ墨汁や黒インクを使って漫画を描く事を知らなかったので、これを見て初めて黒インクで漫画を書いているのだとわかりました。
初めてプロの絵に触れて、心はとても高揚していました。

家には黒インクなんてなかったので、父の使っていた青インクでペンを使って書いてみました。
しかし、ペンの使い方のコツがわからないのでちっとも楽しくありません。
結局は短期間で挫折してしまいました。

ボクが本格的に墨汁とペンで書き始めたのは、中学生になってからですから、まだ先のことになります。

やがて、昼休みを終えて、太志(ふとし)くん達が教室に戻ってきました。

ボクの脇の自分の机に腰を下ろした太志(ふとし)くんは、大汗をかいています。
ひと呼吸したらボクのノートに目が止まったらしく、
「なんだ、漫画もかいでんのが(描いているのか)?
 帳面(ノート)、見せでけねが?」

と、言ってきました。

「いいよ」

太志(ふとし)くんは、ボクのノートをパラパラとめくって描いた絵を見ていました。
「お前、漫画もけっこううまいんだなあ〜」

ボクはまんざらでもないような表情をしました。
でも、太志(ふとし)くんの次の言葉は、

「んだげんとよ(だけどよ)、なしてみんなの顔は同じような方向を向いでんのや?」

思いもよらない指摘でした。
太志(ふとし)くんは続けます。

「人って、色んな所を見でっど思うんだげんと・・・」

いわれてみれば、確かにどのキャラクターもポーズは違っても、左方向を向いているのです。
左向が描きやすいからと、無意識に同じ方向のポーズだけを何枚も描いてしまっていたのでしょう・・・。


(2008年7月16日記)



※この作品はほとんどフィクションですから、年代などあてになりません。
文中の登場人物も仮名ですが、実在される方の敬称も略させていただきました

ボクと漫画大将第6回  

回へ 回へ

トップページ

懐かし掲示板に感想や懐かしい話題を書き込みをしてください。

漫画同人ホップのコーナーへ戻ります

トップページへ戻ります
inserted by FC2 system