昭和漫画少年時代


パラパラ漫画

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さらに翌日。
授業開始まぎわに太志(ふとし)くんは教室に駆け込んできました。

昨日の約束通りにパラパラ漫画を持ってきたのか気になりましたが、今日は教科書を持参していましたので、机が離れたからその事は聞けずにいました。
教科書といえば、太志(ふとし)くんのその教科書は少し傷んでいます。
後で聞いたら、近所の上級生から譲ってもらったのだそうです。
今日のようにまだ教科書が無償配布されていない時代には、その家庭の都合で新しい教科書を買えない子供は、払い下げてもらっていたのです。
物資の不足や収入が低かった当時は兄弟の多い家庭などでは服装等のお下がりは当たり前のことだったように、教科書だってきちんとリサイクルされていたのです。
何でも大切に扱っていた時代でした。
しかし、ボクのようにボンクラでノホホンと育ってきた多くの少年には、そのようなエコに対する意識など毛頭なく、むしろやがて来る大量消費時代の先導者の役目をはたしてしまうのでした。

さて、ようやく中間休みの時間になり、太志(ふとし)くんに声をかけることができました。

「太志(ふとし)くん、きんな(昨日)約束したパラパラ漫画ば持ってきたが?」
「持ってきたよ」

太志(ふとし)くんは、すり切れている自分のランドセルを開けて、中からまとまった紙の束をいくつか取り出します。
そして、その中のひとつをボクに差し出しました。
「これだ」

それは「わら半紙」※1)を小さな長方形にまとめた紙の束でした。
上の方を鉄線のようなものできつく縛っています。
この「わら半紙」というのは、そのころ多く使われていた質の良くない紙で、学校のテストや連絡事項などを謄写版(ガリ版)※2)という手法で印刷するものでした。
印刷する紙のほとんどはこのわら半紙が使われていました。

「この紙は何したの?」
それを見せられても何なのかわからず唖然としていると、太志(ふとし)くんが
「それがオレの作ったパラパラ漫画だず」
と、いいました。

「こいずが?(これが?)」
不審に思いながらも、受けとって見てみると、なにやら絵が書いてあります。
ロケットです。
ゆっくりとパラパラとめくってみると、ロケットが発進しています。
しかも、そのロケットは徐々に速度を増して、ものすごい迫力で手前に向かって来ます。

ボクは息をのんでしまいました。
ボクが描いたように単純に下から上へロケットが平面的に移動するのではないのです。
太志(ふとし)くんのパラパラ漫画のロケットは、下から画面の手前に迫ってきて、やがて、目の前を過ぎて空の彼方へと上昇していくのです。
本当に凄い描写です。

「かえず(これ)は漫画映画だ!」
思わずボクは、そう叫んでいました。

昭和40年前後の長崎小学校正門前


(2008年7月15日記)


※1)わら半紙
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
(藁半紙 から転送)

わら半紙(わらばんし、藁半紙)とは稲藁を原料に作成される半紙である。
現在では木材(主に針葉樹)をすり潰した機械パルプを原料に作られた中質紙や、さらにその下級紙である更紙(ざらし)の事を指し、小学校などの教育現場で多用されていた。

※2)謄写版
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
(ガリ版 から転送)

謄写版(とうしゃばん)は、印刷方法の1つ。
孔版印刷の1種である。
ガリ版(がりばん)ともいう。
発明者はトーマス・エジソンで、1893年ごろに原型がつくられた。
日本の堀井新治郎が改良。
1894年に完成したものが現代につながる最初の謄写版印刷機であるとされる。
ほぼ20世紀全体を通して、日本で多く使われた。
ロウ紙と呼ばれる特殊な原紙(薄葉紙にパラフィン、樹脂、ワセリン等の混合物を塗り、乾かしたもの)を専用のやすり(鑢盤または摩研布)の上に載せ、「鉄筆」という先端が鉄でできたペンで文字や絵をかく (この作業を「原紙を切る」という)。
この部分は紙の塗料がけずれ落ちて細かい孔がたくさん開き、「透かし」となる。
木枠に原紙を張りわたし、原紙の上にインクを塗り、下に白紙をおいて、上から押さえると、「透かし」部分の文字や絵の部分だけインクが通過し、印刷されるしくみである。
原稿用紙と原版が同一であるのが特徴で、印刷後、原紙は破棄される。
「ガリ版」の呼称は原紙を切る作業中に生じる音から来ている。


※この作品はほとんどフィクションですから、年代などあてになりません。
文中の登場人物も仮名ですが、実在される方の敬称も略させていただきました

ボクと漫画大将第3回  

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