16東映動画へ向かう

1 迷子 

「困ったなあ……迷子になったゾ」
 たかはしが住宅街の家の門標を見ながらいった。
 井上は困り果てた表情で村上に向かって言った。
「ちばてつや先生は待っているでしょうね?」
「ウン。あの先生はまじめそうだから待っている。住所が間違いなく富士見台3丁目××番××号ならば、この辺なんだがなあ」
 村上は持参してきた東京地図を道路に広げてそう言った。
「住宅地の割には誰も通らない寂しいとこですネ。山形市の田舎ですら自転車やばあちゃんが歩いているけどなあ」
 たかはしが周りを見渡して言った。
「公衆電話もないし、ちば先生に連絡しようがない」
 井上の表情はますます曇っていく。
「売れっ子作家を待たせに待たす、まんが少年なんてカッコイイなあ」
 たかはしは、焦る井上を励まそうと、はしゃぐ様な調子で言った。
「たかはしセンセイはそう言うけど、あしたのジョーが描き遅れたらどうしよう」
 井上は、ますます自責の念にかられる思いになっていた。
「あれから優に30分に過ぎている。井上クンあきらめよう」
 村上が顔中の汗を拭きながら、たかはしと井上に決意を促した。
 たかはしと井上は仕方なく黙ってうなずいた。

 三人は駅に向かった。
 次の訪問先東映動画に向かうためである。
 富士見台駅にある電話ボックスに目がいった。
 井上は何とかしてちばてつやに連絡をとって、詫びを入れたかった。
 しかし、電話ボックスには先客がいた。
 村上が大泉学園駅までの切符を三人分まとめて買った。
 駅員に切符を切らせてホームに入る。
 井上は電話を気にしていたが、電車が入って来る音でそのこともあきらめることに時間はかからなかった。

2 東映動画 



 富士見台駅から東映動画のある大泉学園駅までは約四キロ余りである。
 時間にして10分だが、駅から東映までの徒歩の時間が分からない。
 まして、たった今地番の近くまで行って、なお家を発見することが出来なかった。
 もう先方への失礼は許されない。
 三人はそれぞれがそう考えながら、電車の窓から外の景色を目で追った。


 大泉学園駅から東映動画までは10分もたたないで着いた。
 なにしろ東映動画といっても、映画・東映の子会社である。
 駅からは「映画・東映」の道案内が電柱のアチコチに印してあった。
 人通りも多く、たくさんの人たちが東映の正面門に吸い込まれて行く。
 正面玄関には守衛がおり、村上は「東映動画の○○さん」に面会を求めた。
 守衛は手馴れた応対で三人に接して、すぐに電話の内線で東映動画と連絡を取り面会の許可を取ってくれた。
 守衛は右側を指さして東映動画のある場所を教えてくれた。


 敷地を歩くとすぐに、チョンマゲを付けた時代劇の着物姿の役者たちとすれ違った。
 三人はその珍しい光景に、頭と目をキョロキョロ廻した。
 「東映動画」の縦看板が目を引いた。外から見ると建物は大きく、スタジオというより工場のように見える。
 虫プロダクションの建物のような新鮮さはなかった。
 事務所に入る三人は再び緊張した。
「日本アニメーション界の大御所東映動画に来た!!」


 当時の子どもたちのほとんどは東映動画の作品を観て育っていた。
 小学校の映画教室を始めとして映画館やテレビで観る日本アニメーションのほとんどが東映動画の作品だった。
 「白蛇伝」をかわきりに「安寿と厨子王」、「西遊記」など大人の鑑賞にも十分たえられる作品を作っていた。
 虫プロがテレビアニメに進出してからは、東映動画もそれに続き「狼少年ケン」、「風のフジ丸」、「タイガーマスク」などのヒット作を誕生させていた。
 この夏も、石森章太郎原作の「海底三万マイル」が封切られる予定だ。
 村上、たかはし、井上にとってはこの東映動画には虫プロとはまた違った親しみと憧れがあった。


「ごめん下さい……山形から来ました。漫画研究会の者です」
 村上が挨拶をした。
 事務所には三人の男性がいた。
 三人は半袖のワイシャツ姿にネクタイをしていた。
 髪もきちんと別けており、アニメーションという芸術家集団とは程遠い。
 事務職だからそれもそうなのだろうと村上は思った。

(文中の敬称を略させていただきました)

はじめちゃんの東京騒動記第16回  

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