14ちばてつや先生

1 寄り道 



 たかはしは腹立ち紛れに小石を蹴った。
 小石は幅6メートルほどの小道の中央で止まった。
 井上は虫プロダクションの建物をカメラに収めている。
 村上は元気なく歩き出した。
「天下の虫プロがどうしてこんな対応になるンだベ」
 たかはしは先ほどの虫プロの対応について気が治まらない。
「山形からわざわざ上京しているのになんということだ」
 村上は優しくたかはしにこう言った。
「たかはしセンセイ、御免、御免。 俺がもうちょっと事前に連絡していればこんなことにはならなかた。 虫プロの人が言うとおりだよ」
 井上はカメラをバックにしまいながら二人に言った。
「原画は貸してくれるでしょうか?」
「難しいかもしれないね」
 村上は額の汗を拭き拭き応えた。
 そして続けて言った。
「あの話から推測すれば、虫プロダクションはデパートの展示会やいろいろなところでの催し物に原画を貸しているようだし、それが仕事になっているようだね」
「つまり商売ってことかな?」
 たかはしが言った。
「そうだね。虫プロ商事と違って、虫プロダクションはアニメ会社だから動くお金が違うんだと思うよ」
「でも、どちらも手塚先生が社長でしょう?」
 井上が問う。
 村上はそれに優しい話方で応えた。
「社長は同じでも、実際の権限は違うんじゃないかなあ。 コムの虫プロ商事は石井編集長で、手塚プロは手塚先生。 虫プロは分からないけど誰か手塚先生に代わる人が権限を持っていると思うよ」
「巨大なんだなあ。手塚先生は?」
 井上が言う。
「この白い城がそれをものがっているのさ」
 村上が言った。
「アレ〜 お土産のサクランボを渡すのを忘れたゾ。 まあいいガア、原画が借りられないガも知れないガラ」
 たかはしが言った。
 時計は午後二時を指している。
「このままだと、東映動画に行くには早すぎるなあ」
 村上が太陽に目を向けた。
「午後四時の約束だっけねっス?」
 たかはしが聞き、
「どこかで暇潰しでもするがっス?」
 と、言った。


 次ぎの訪問先はアニメ会社の最大手東映動画へ行くことになっていた。
 東映動画には訪問時間や訪問内容などすべて手紙によって確認済みになっていた。
 村上は東映動画と虫プロのの事前対応を比べて、虫プロの未熟な点を感じてならなかった。
 これも虫プロの急成長と組織的に社員には若者が多いことの裏返しの結果と感じた。

「そうだ!! ちばてつや先生に会いに行きましょう!!!」
 突然、井上が明るく大声を上げた。
「ちば先生はこの富士見台と同じ住所だったと思いました。 すぐ先生に電話して会ってもらいましょう。 原稿も貸してもらえるかもしれないです」
 そう言って、すぐに電話ボックスを探しに歩いた。
 村上とたかはしも仕方なしに井上の後をついて行った。

 タバコ屋のピンク電話があった。
 早速、今朝のように職業別電話帳から「漫画家」を探した。
(ちばてつや 東京都練馬区富士見台……電話……)
 指で文字を追いながら、10円を電話に入れてダイヤルを廻した。
「ツーツー ハイちばです」
 電話から男の人の声が応えた。
「あの〜ちばてつや先生のお宅でしょうか? 私、山形県米沢市の米沢漫画研究会の井上と申します。 先生は御在宅でしょうか?」
「ハイ、少々お待ち下さい」
 村上とたかはしは、ドキドキしながら井上の電話のやりとりを聞いていた。
「ハイ、ちばです」
 間違いなくテレビやラジオで聴くちばてつや先生の声であった。
 井上は緊張に緊張を重ねて話した。
「ちば先生、突然のお電話で申し訳ございません。 私は山形県米沢市の米沢漫画研究会の井上はじめといいます。 実は近日中に米沢で漫画展を開くことになっております。 この件で虫プロ商事コムの編集長石井文男さんや手塚先生と今朝お会いして来ました。 原稿もたくさんお借りしてきました。 そこで先生にも御協力のお願いに参上したいのですが……」
 いっきに用件を話した。


「今、どちらにおいでですか?」
「虫プロダクション近くのタバコ屋です」
「ああ、富士見台ですかあ。 それじゃこれからおいでなさい」
「よろしいですか?」
「家は分かりますか?」
 この時井上はとっさに、
「分かります」
 そう答えてしまっていた。

(文中の敬称を略させていただきました)

はじめちゃんの東京騒動記第14回  

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