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同封された「ホップ」には29号もあった。
1969年5月25日発行と書いてあった。
つい最近の最新号であった。
山形漫画研究会と改めてからは第2号になる。

肉筆回覧誌「ステップ」3号の原稿締め切りが報告されていた。
集まった原稿の紹介は次のように書かれていた。

会員合作SF漫画「大支配」で、9人の会員の力作、50ページの大けっ作となりました。

かんのまさひこくんのファンタジー野心作「雨上り」は8ページ
たかはしよしひでくんの「SFパトロールシリーズ・3 β−108」は得意のSFスペース物。正田つとむ少年の活躍 16ページ
長岡孝子さんの作品、「永遠の幸」はファンタジー。18ページ。
COMでもおなじみ、福田達男くんの「戦国用心棒」は、時代物。
その他、水谷俊之くんの特撮、「地球の守り神」・岡部一くんの短編や、佐竹武彦くん、川崎博くん、田辺英治くん、林礼子、ごとうかず子さんなどのカット。
とにかく、「ステップ3号」は、漫画とカット※だけで、130ページ位になる予定で、スタッフ一同喜んでいます。
なお、回覧は原稿提出者のみ。
それでは、6月初旬の回覧に、ご期待ください。

しかも、2ページ目には
「ステップ1号もどる」
と記事があり、前年の12月に発行した「ステップ1号」が半年かかって全国を回覧が終ったことが書かれていた。
感想の記事が紹介されたいた。

この「ホップ」の中で極めて目を引いたのがかんのまさひこの小説「ショートショート白いえんとつ」だった。
現代版の童話に仕立ててあるが、えんとつさんから観た高度経済成長の日本の町並みが変わっていく状況と、ついに自らの存亡に見舞われるまでを描いていた。
特に井上はこの「白いえんとつ」に感動した。
そして「かんのまさひこ」が描くマンガに惹かれるのであった。
かんのの描いたイラストなどから「きっと詩情あふれるマンガ」を描く人ではないかと想像をした。

また、「水野重康=美津濃重康」の「SF復活論」などは、専門家や映画スタッフでなければわからない話題と批評を書いてあり、奥の深い文章に驚いたのだ。
そして、たかはしよしひでの小説「SFパトロール」や、会員による映画評論、マンガ評論にイラストがびっしりと誌面を埋め尽くしていた。
わら半紙にガリ版で印刷された「ポップ」には若者たちの熱気と知能があふれていた。

井上は機関誌がこんなにすごいのだから、同会で発行する肉筆回覧誌「ステップ」はすごい作品ばかりなのだろうと想像した。
「一刻も早く見てみたい」
そうの想いが日々強くなっていった。
そのためにもこの「山形漫画研究会」の会員になることだと決意し、入会申込書に記入して入会金と会費分の切手を送った。
そして「スッテップ」を見せてほしい旨を便箋に書いて同封した。

たかはしからは丁寧に井上宛ての手紙が書いてあった。
「ぜひ、会員になってほしいです。米沢から第一号の会員として。そしてあなたの作品も見せて下さい」
十日位たったら小包が届いた。
厚手の油紙に包まれ、太い糸紐で横縦に数ヶ所グルグル縛られていた。
送り先と送り主の住所氏名を書いた名札と称したモノを二枚付いていた。

急いで包みを解くと百科辞典のような厚さの「ステップ」1号が井上の目に飛び込んできた。
そして墨汁の独特の油の匂いが部屋中に漂ってきた。

緊張しながら井上が「ステップ」1号を持った。
そのどっしりとした重さに井上は「ステップ」を落しそうになった。

※カット=イラスト
※肉筆回覧誌:原稿をそのまま紐などで綴じて、表紙を付けたもの。
それを会員の間を小包や、手渡しなどで回覧するもので、青焼きコピーが出てくるまでは、ガリ版刷りと同じく同人誌としては一般的でした。
会員数にもよりますが、手元に置けるのは、わずか2〜3日でした。
有名なところでは、石ノ森章太郎先生の『墨汁一滴』などがあります。

(2006年3月12日記)

(文中の敬称を略させていただきました)

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