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- 春の日差しがガラス窓から注いできた。
- 春とはいっても米沢の春風はまだ冷たさを残している。
- お昼休みになり、佐藤修一が井上に近づいてきた。
「おい、井上。
- さっき秋野さんに贈ったマンガの件だけどな」
「……」
井上は黙って佐藤の目を見た。
- また、冷やかされるのかと思うとウンザリしてしまうのだった。
「あの『帰ってきたヨッパライ』の人物はなかなかいいんじゃないかと思うだ。
- つまりあの歌(帰ってきたヨッパライ)のイメージにも合うんだけど、あの人物その者がおもしろいと思う。
- 井上はマンガは上手だけれど、どうしても石森章太郎風で独自性がない。
- ようやく井上らしいマンガの人物が出来ようとしているなあとオレはうれしくなったんだ」
佐藤はお世辞などいえるタイプではなかった。
- それだけに佐藤の言葉に井上の胸は熱くなり、うれしさが沸き起こってきた。
「修ちゃん、お笑止な(おしょうし=ありがとう)」
井上は素直に言った。
それから井上はもう一度「帰ってきたヨッパライ」を複製して描いてみた。
この登場人物のヨッパライを「アングラくん」と名付けた。
- その他に、この歌にはないオリジナルの場面を付け加えてみた。
地上に落ちた酔っ払いのアングラくんがなんと田んぼの中で、そこには麦藁帽子を被ったステテコ姿のおじさんがおり、このおじさんがアングラくんをつかまえて、
「お前何やってんだ。この忙しいときに。さあ、働け働け」
と言うのである。
- 肥担ぎをするのである。
このステテコおじさんは当時人気絶頂のクレージーキャッツの植木等をイメージし、肥担ぎはそのクレージーキャッツの人気に迫る勢いだった、ドリフターズの加藤茶の肥担ぎを参考にした。
- 佐藤修一がこの肥担ぎポーズが得意で、よくクラスの中で演じて笑いを誘っていたで、井上には強烈な印象として残っていたのだった。
井上はそのステテコ姿のおじさんを「田吾作おじさん」と名付けた。
- 目は帽子に隠れていたが鼻毛が伸びていてなかなかおもしろい人物に描かれていた。
- 佐藤修一に借りたレコード「帰ってきたヨッパライ」は意外な効果を井上のマンガに与え、この「アングラくん」と「田吾作おじさん」はその後も井上のマンガの中で活躍するなどとは井上自身も想像はしなかったのである。
- (2006年 3月 8日 水曜 記)
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