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この日は学校が終わると、井上と佐藤、渡辺は早足で、中学校から5分ばかりの渡辺清の家に集まった。
- 二階の清の部屋で三人は寒さに震えながら頭を寄せ合った。
- 「いいかい、マンガを描く道具は……」
と言って、井上は新聞広告の裏に書いて説明をした。
- ひとつ道具を説明すると渡辺は質問を繰り替えした。
- 佐藤は静かに聞き入っていた。
- 説明が終わると渡辺は早速、道具を買いに行こうと言い出した。
同じクラスの丹野の姉が勤めている相川文具店に行くことにした。
日光の温かさでザクザクと溶けた雪道を歩きながら井上は渡辺に訊いた。
「清くん、お金は大丈夫かい?」
「ああ、大丈夫さ!修ちゃんの分も立て替えておくぐらいは持ってきたから」
と言って、1000円札をポケットから取り出した。
「清は金持ちだなあ……」
と佐藤はニヒルな笑いを浮べて羨ましがった。
あいにく丹野の姉はいなかった。
- 井上は以前に丹野の姉から道具を揃えてもらた経験がある。
ペン先やペン軸、製図用インクに墨汁、そして模造紙のある場所がわかっていたので、まごつくことなく渡辺と佐藤にその場所を案内して買い物を勧めた。
冬の夕方はすぐに暮れる。
- 外は暗くなっていた。
- 店内の電気の明るさが一層増して感じた。
日中の天気で晴れた雪道を、自動車が走るたびに雪を蹴散らし、それが歩く人々の胸ありを襲ってくる。
- そのたびに歩く人々は飛び上がって汚れた雪を除けようとする。
- 三人はなぜか興奮して歩いていた。
- 渡辺だけがひとり話続けていた。
翌日、学校が終わるとすぐに渡辺の家に集まることにした。
井上の班が掃除当番のために遅れていた。
- その間に佐藤は「巨人の星」の主人公星飛雄馬の顔を模造紙いっぱいに鉛筆で下書きを始めていた。
- 渡辺はそれを傍で見ながら佐藤を励ましていた。
井上が渡辺の家に着いた頃は、佐藤は下書きを終えていた。
- 「井上、ここまで描いた。
- 我ながらよく出来た!
- さあ、後はお前が手を入れて直してくれ。
- 遠慮はいらないから、どんどん直してくれよ」
佐藤は信頼しきった目で井上を見て言った。
「ああ、修ちゃんがそう言うなら遠慮しないで直させてもらうよ」
井上は4Bの鉛筆で、デッサンの多少違うところに線を新たに描き足していった。
- それを真剣に見ている佐藤と渡辺だった。
「線の流れが違うぞ……」
渡辺が言うと、佐藤は続けてこう言った。
「ウン、確かに違うね。描き慣れている線だ。
- オレの線とは違うなぁ。
- それに線が堂々としていて、線が生きているようだ!」
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