28「井上は久々に永島作品を読むことになる。
そして……」

 漫画家残酷物語・2


漫画家志望の青年や漫画家の生活を私小説のように描いた永島慎二の「漫画家残酷物語」。
この作品はマンガを描く青年たちにはちょっとした漫画家生活を覚悟するような書であった。

石森章太郎の「マンガ家入門」がメジャーデビュー用の「明」の入門書なら、この「漫画家残酷物語」は貸し本屋向けの漫画家の下積み生活を描いており、漫画家の「暗」を描いていた。

「まんが・か」という文字も石森は「マンガ家」と有名出版社の少年誌に連載を持つ「マンガ家」を指しているようであり、一方の永島は「漫画家」と書いてあり忠実であり、古風さえ感じるのであった。

井上は自分の描きたいテーマはなんだろうと考えた。
「自分が読んで楽しいマンガや感動するマンガが、必ずしも自分が描きたいマンガだろうか」
と思うまではあまり時間が掛からなかった。

マンガの絵を描くのは好きで楽しいのだが、自分が描き(えがき)たいことってなんだろうと考えた。

小さい時のように、手塚マンガの模写やマネをした物語では飽き足らなくなっている自分がいる。
しかし、一方では何を描いていいのか、何を描きたいのかわからない自分がいる。

井上は起き上がっては座りなおした。
ひざの前には永島慎二の「漫画家残酷物語」が三巻詰まれていた。
その一巻一巻には親子の確執や恋人の別れ、漫画家同士の友情と悲劇、愛と死が描かれたいた。
井上はその一つひとつの物語を読み、手塚マンガや石森マンガとは異質の「青春と人生」を感じとった。

漫画家の生活を描いてもこんなにたくさんの短編を描くことができる。
しかも、笑いなど微塵もないこの永島マンガである。
きっと永島慎二の身の回りで起きたたくさんの人生を題材にしたのに違いない。

だとすれば、中学生の
「おれの周りで起きていることを題材に描くことからはじめること……」
と漠然とだがこころに感じるのだった。
この中学校での出来事や友人を題材に、
「自分自身がどう生きたいか」
を描いてみるのもおもしろいのではないかと思うのだった。
とにかく井上は描きたいのだった。
ペンを握りたいのだった。

青春と人生の哀しみを描いた永島慎二の「漫画家残酷物語」は、井上にとっては問題解決の明るい作品と映っていた。

(文中の敬称を略させていただきました)

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