26「けいじとえいこ」

 短編漫画を描く

 短い眠りから覚めると寒い寒い朝だった。
太く長い氷柱(つらら)が朝日を反射させていた。

 井上は一晩で描いた短編マンガ「けいじとえいこ」を改めて見ていた。
墨汁の匂いと製図用インクの油っぽい浮き上がった線と白のポスターカラーが模造紙の上に輝いていた。
それが「原画」が持つ迫力のように見えて井上は感動するのだった。

 新聞の広告紙に原画を包み、大切にソ〜ッとカバンに入れた。

 朝の通学路がツルツル滑る。
雪道が凍り、長靴が雪を踏みしめると「キュッキュッ……」と雪が音をたてた。
睡眠時間は短いはずなのに眠気を感じない。

 歩きながら興奮している自分がよくわかった。
そして頭の中ではこのマンガを誰に見せようかと同級生の顔を浮かべていた。

(丹野くん、藤倉くん、由紀江ちゃんに美智江ちゃんかな……)

 二校時目が終わったときに、井上はカバンから原画の包みを取り出した。
そしてそれを離れた席の丹野へ持って行こうとしたときに、声を掛けられた。

「なにしてんの?はじめくん」
 班長の美智江だった。
 井上はとっさに包みを隠した。
「何かくしたのよ?怪しいね、見せてみな?」
 井上の机の側で美智江は言った。
「なんでもないよ……」
 とっさに井上が答えた。
「なんでもなくないよ、私に見せられないの?何してんのよ!?」
 強い口調で言った。
 真っ赤になった井上は恐る恐る包みを差し出した。

 包みを受け取ると美智江は
「開けていいの?」
 と、言い、井上はコクンと頷いた。
一呼吸おいて美智江は包みを開けた。

「ま・ん・が・だあ……」
「はじめくん描いたの?」

 美智江の質問に井上はまた頷いた。

 美智江は1枚1枚、丁寧に原画を見始めた。
その側で井上は目線を机の一点においた。
長い時間が流れたような気がした。

「はじめくん、頑張ったね」
 美智江がやさしく言った。
 その言葉が終わるか終わらないうちに、
「すごい〜なあ。はじめく〜ん」
 コースケが間に飛び込んできた。
 すると
「なにが〜」
 と、長沢がやって来て、
「お〜マンガだ!!これはじめが描いたのかあ!!!」
 原画をつかんで食い入る様に見始めた。
すると周りのみんながあっという間に井上を囲み始めた。
「おい、おい、みんなあ……マンガの原画だから大切にしろ!!。
 くちゃくちゃしちゃダメだぞ」

 藤倉が加勢してきた。

 三校時目が始まるチャイムが鳴った。

 堤が言った。
「これはオレじゃないか?オレがモデルかぁ?」

(文中の敬称を略させていただきました)

はじめちゃんの東京騒動記第26回  

第27回にご期待下さい!!

25 26 27回へ

懐かし掲示板に感想や懐かしい話題を書き込みをしてください。

トップページへ
漫画同人ホップのコーナーへ戻ります
トップページへ戻ります
inserted by FC2 system