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お昼が過ぎて太陽はいっそうギラギラと輝く。
熱い空気がアスファルト道路をベタベタにした。
道路からも熱い空気が反射されるように舞い上がっていた。



米沢市民文化会館の前では「山形まんが展」の準備に来たメンバーたちが集まっていた。
みんなは学校から文化会館までマンガの原稿や掲示備品などを手分けして運んできた。
誰もが顔中汗だらけで肩で息をしていた。
文化会館の前には、「第二回 山形まんが展」と書かれた大きな縦看板が立ってあった。
この看板は、井上ら美術部メンバーで制作した手作りの看板だった。
シンプルで上品な仕上りで一際目を引いた。
小山絹代と戸津恵子は看板を感心そうに見ていた。
鈴木和博が使用許可書を受付に出すと、メンバーたちは原稿や備品をいっきに三階の展示室まで運んで行った。 
係員がその後を追うようにやってきて、展示室の鍵を開けた。
ム〜ッという熱風とカビの臭いが展示室からロビーに流れてきた。
「今日のお昼から使うってわかっているんだから、窓ぐらい開けていればいんだ。
 お役所仕事はこれだから困るんだ」

田中富行が、係員に聞えるように言った。
「我らも市から委託されて、そのとおりしないといけないんだよ」
まだ若い長髪の不良っぽい係員が無愛想に言った。
「ありがとうございました!」
小山絹代が割り込んで話を打ち切らせた。
むっとした表情で係員は階段を下りて行った。
カチャカチャという鍵同士がぶつかる音が小さくなって行く。 

小山は無言で展示室の窓を開けた。
それに戸津恵子が続いて窓を開けた。
カビの臭いが再び部屋中に舞った。
美術部の田中が会場をよく知っていていて、三階と二階にある展示パネルとそれを支える鉄柱を運びように男子生徒に指示した。
鈴木も宮崎賢治も手馴れていたから、近藤重雄や新藤克三たちに場所を教えながらせっせと運んだ。
小山と戸津は会場を丁寧にほうきで掃いた。
小さいゴミも逃さないようにしてきれいにした。
教育委員会の挨拶を終えて、井上はじめが展示室に上がってきた。
「みんな、遅れてごめんなあ〜」
「いのうえ〜、暑くてたまんねえよ〜 なんか冷たいモノでも飲もうよ」
「お〜っ、ご苦労様。
 どんどん準備は進んでいるからなあ」

みんなが井上にそう声を掛けた。 

「んだよね(そうだよね)。
 ゴメン、ゴメン。これから買ってこよう」

と、井上が笑いながら言った。
みんなは体を休めないで笑った。
「戸津さん! 
 すいません!!」

井上が呼んだ。
井上くん戸津はすぐに井上の傍に駆け寄ってきた。
「どうしたの?」
戸津は夏の制服を着ていた。
細い体にその制服がよく似合っていた。 

「先輩、ファンタでも買ってきてくれぺっか(くれますか)。
 ハイ、これお金です。
 ああ、領収書をお願いです」
「わかったわ!
 出きるだけ冷えたのを買ってくればいいのね」
「お願いします」

戸津は展示場を出ようとした時、足を止めて振り向いた。
そしてゆっくり戻ってきた。
「井上くん、これで汗拭きなさい!」
「ハンカチならあるけど?」
「そう……」

井上には戸津の表情が一瞬母親のように見えた。
戸津はハンカチを握り返して、クルリと後ろを向いて階段を下りて行った。
後ろにひとつに束ねた長い髪が階段を下りるリズムに合わせるように、ゆっくりと弾んだ。

(2006年7月22日 土曜記)



(文中の敬称を略させていただきました)
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