鈴木和博は井上と同じ中学校だったが、クラスが違ったこともあり中学当時は顔見知り程度であった。
同じ高校になり、同じクラスになってからは、自宅も近かったこともあり親しくなっていった。
鈴木は元々は剣道部で活躍をしていたが、腰痛になり医師からの「激しい運動を控えた方がいい」というアドバイスで、井上が所属していた美術部へと移籍した。
それは高校一年生の二学期途中からだった。
鈴木は元々好奇心が旺盛だった。
家業が建具店をしていたことから小さい時からモノづくりが得意だった。
絵を描くのも好きだった。
だがそのチャンスはなかなかなかった。
ジッとしている性分ではなく、動いている方が好きだったからだ。

鈴木が美術部に入るや、井上の多忙な一日を観察することになる。
井上は美術部であっても生徒会にも出入りしていた。
井上自身はその時はまだ生徒会の役員ではなかった。
不思議に思った鈴木はある時、井上に訊ねた。
「はじめ、どうして美術部なのに生徒会に出入りしているんだ?
 お前は何か企んでいるのか?」
すると井上は半分怒ったような表情でこう言った。
「和博くん、この学校は文化を無視している」
ブ・ン・カ?って文化部のことか」
「そうだ。
 私学だから運動部に力を入れるのは当り前だ。
 現にうちのクラスの豊くんやまち子さんは優たい生で学費も免除され、授業にも出席しないで練習に継ぐ練習だ。
 それに比べて文化部はどうだ。
 なくてはならない部としての活動をしているか?
 先生も生徒も方針も予算もいい加減だ。
 先生が自ら部活指導に来ているのは音楽部と吹奏学部だけじゃないか」
「それはそうだ。
 だからおれたちは自主的にいろいろな挑戦ができるじゃないか」
「それは美術部には林先輩というまじめな部長がおり、田中富行さんのような実力者がいるからだ」
「井上、お前だって立派なもんじゃないか。
 マンガをこの学校に持ち込もうとしている。
 それだって美術部の活動にして、みんなの関心を集めようとしている」
「和博くんそれは違うって。
 そもそもおれのマンガに着目したのは新聞部の佐藤さんだ。
 しかも佐藤さんは、おれたちと同じ中学校で同じ歳の弟の正和くんから、おれがマンガを描いていたことを聞いて、マンガを依頼してきた。
 しかも、新聞部には美術部と二股をかけている京子ちゃんがいる。
 美術部ではないんだよ」
「だけどな、みんなは美術部の井上が美術部の活動としてマンガを描いていると思っている。
 それでいいんじゃないか!?」
鈴木はいつも井上に議論を持ち込み、そして鈴木が井上の声をまとめている存在だった。

「それで、どうして生徒会に行くんだ」
 鈴木は質問を戻した。
「予算獲得だ」
「予算って何の予算なんだ」
「来年度の美術部の予算と文化部総合の予算を大幅に上げてもらうように交渉している」
「なるほどな」
「だっておれたち部活をするために空き瓶を拾ったり、アルバイトしたりしていた。
 その結果、島くんや何人かがこの美術部を辞めていったじゃないか。
 体育部では部のためにアルバイトなんてしているか?」
「スポンサーが付いているって聴くぜ」
「そうだろう、文化部の特にこの美術部が年間九千円の予算しかないなんておかしい」
「はじめの言うとおりだ。
 よし、次回の生徒会役員にはじめが立候補するように段取りするからな」
「和博くん、おれはそんな気はないぞ!!」

井上の意思とは反対に、和博はクラスの仲間に呼び掛けて井上を生徒会役員に送り込んだ。
生徒会の先輩たちもそれを歓迎してくれた。

(2006年4月5日 水曜 記)


(文中の敬称を略させていただきました)
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