昭和漫画少年時代


ボク

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モクモクと勢いよく立ち上る入道雲。
そんな季節になると思い出します。

すでに遠くなった昭和39年。
10月の東京オリンピック開催を目前に、世の中は好景気にわいていたはずです。
その年の暑い夏のわずかな期間。
ボクと大きく関わり合ったある少年のこと。
「漫画大将」と呼ばれていた、あの少年のことを。

ボクが小学校5年の6月の初めでした。
その「漫画大将」こと、大山太志(ふとし)くんに出会ったのは。

当時、ボクが暮らしていたのは、東北地方の山形県の片田舎。
東村山郡中山町というところでした。
山形市まで電車(当時は何でも汽車と呼んでいました)で20分ぐらい。
でも、その当時は山形市は都会で、住んでいた中山町は僻地という感覚でした。
たまに家族で山形市へ出かける時などは、新しい服を着て出かけたものでした。

ちなみにここでは「ボク」と言っておりますが、実際は「オレ」とか「オラ」と言っていたのです。
「ボク」なんて恥ずかしくてとても言える状況ではありませんでした。
それほどの田舎だったのです。
前述の世の中の好景気という話とは全くの無縁の土地でした。

さて、ボクの自宅は、「左沢線(あてらざわせん)」というローカル線の「羽前長崎駅(うぜんながさきえき)」の近くにありました。
家業は「トタン屋根葺き」、いわゆる「トタン屋」さんと呼ばれておりました。
祖父と父、そして叔父の三人がその職に就いていました。
父が生まれた年にこの家が建築されたのだそうです。
後年、この家の取り壊しと共に父が死去しました。
その時は人智を越えたものを感じました。

その自宅の敷地は、田舎ではあまり広くはない100坪ほどあります。
その中には、母が手作りの畑をこしらえていました。
「なす」「きゅうり」「さやえんどう」などの季節の野菜が植えられていました。
当時は、どの家にも小さな畑があったのです。
また「梅の木」や「柿の木」、「梨」、「すもも」といった果樹が一本ずつ植えてあります。
そのうちの柿の木はボクと同じ年月を生きてきました。
ボクが生まれた年に接ぎ木して植えられたのだそうです。
その柿の木や梅の木のてっぺんに僕はいつも登っていました。
そこからひとりで遠くの景色を見渡しているのが好きなとても内気な少年でした。
木に登るのが好きだったのは、まるで空を飛びまわっているような高揚感を味わえたからでした。

その日もまた、学校から帰るとすぐに、いつものように梅の木のてっぺんに登りました。
掴まっている枝を大きく揺すっていると、気分はすっかり「ナショナルキッド」が飛行しているようです。
思わず大きな声で歌を口ずさみながら、両手(もろて)を高くさしのべて、小さなナショナルキッドは大地を蹴って大空高く舞い上がって行くのでした。

行け、地球を侵略するインカ帝国の魔の手から地球の平和を守るのだ!
インカ帝国の宇宙船に急速接近。
敵が光線で攻撃してくる。
「危ない!」
しかし、さすが!
それを巧みにかわして、いよいよナショナルキッドの反撃だ!
掴まっている枝をますます大きく大きく揺さぶる。
1機、2機と敵の円盤を撃墜、また撃墜!
宇宙狭しと全速力で飛行するナショナルキッドの勇姿が確かにそこにありました。

「ボーツ」
ボクは、汽笛に我に返ります。
当時まだローカル線を走っていたSLが近くの羽前長崎駅に到着したのです。
ボクはもくもくと真っ黒な煙を上げてばく進するSLがとても大好きでした。
SLが到着するには駅まで走って見に行くこともたびたびあります。

やがてそのSLは次の駅「寒河江(さがえ)」を目指し、煙をいつまでもたなびかせて出発し行きました。
ややすると今のSLから降りてきた乗客がボクの家の前の道路をぞろぞろと歩いて過ぎていきました。
朝夕にはたくさんの人々が乗降して、足音や話し声などでしばしにぎやかになります。

少し遅れて、家族連れらしい一団が歩いてきました。
その中に、坊主頭で風呂敷包みを背負ったプロレスラーのように体格のいいその少年はおりました。
僕が通っている小学校ではみかけない少年でした。
両親らしい大人と兄弟のような子供が三人連れだっております。
その少年が道ばたから木の上にいるボクを見上げたから、なにげなく見ていたボクと目が合ってしまいました。

大きな目でジロリとにらみつけられたようです。
臆病なボクはそれだけで足がすくんでしまいます。
思わず足を滑らしそうになって、掴まっていた木の枝をさらにきつく押さえつけました。
それでもその少年はそのまま何事もないように過ぎて行きました。

その少年が後に漫画大将と呼ばれ、そしてその夏にボクと大きく関わり合っていくことになるなんて、その時のボクにはまだ想像もできませんでした。


(2008年7月13日記)



※この作品はほとんどフィクションですから、年代などあてになりません。
文中の登場人物も仮名ですが、実在される方の敬称も略させていただきました

ボクと漫画大将第1回  

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