部・第回 酒田のマンガ仲間の脱退



 夜の東京は意外に涼しかった。
 蚊取り線香の煙が窓から入ってくる風に流されて横に揺れていた。
 
 浴衣姿の三人は布団の上に胡坐を掻いてしんみりとしていた。
「そうか、酒田支部が事実上の脱退かあ……」
 淋しく村上彰司が言った。
 額に汗をびっちりと掻いた井上はじめが、ウンとうなずいた。
「支部設立以来、作品募集にも応じない……一年後に後藤求クンからのこの手紙だからなあ。ショックだった」
 うなだれたまま、井上が思い出すように言った。
 ぐらこん酒田地区の地区長は後藤求だった。
その彼からの手紙の内容は、酒田地区はぐらこんから脱退して独自の路線を歩んでいくという内容だった。
 宮崎賢治も頭を下げた。
「悪かったノ。酒田から『ぐらこん作ろう』と言いながら、こんな結果になるなんて」
 村上は二人に謝った。
「救いはぐらこんを辞めても独自にマンガ同人活動を続けていくということかなあ」
 井上が言った。
「そう言ってくれると酒田のマンガ仲間は救われるよ」
 村上はすまなそうに言った。



「村上さん、オレ思うんだけど、ぐらこん山形支部を作って地区毎に活動をすることはいいんだけど、各同人会や漫画研究会を解散する必要があったんでしょうか?」
 井上が言った。
「ウン……だけどオレが考えた各漫研や同人会を解散しないことには、地区毎にまとまることは不可能だろうと思ったからなあ」
「村上さんの考えはよくわかるんです。
各漫研には全国から会員が加入している。
山形漫画研究会も米沢漫画研究会も北海道から大阪まで仲間が広がっているから、山形支部としての単位を考えれば適当ではないということも」
「酒田地区の各漫研はそのまま存在しているのかなあ?」

 宮崎は村上に訊いた。
「ウン、各漫研は活動をしているみたいだね」
「じゃあ、酒田地区はどうしてぐらこん山形支部を作ったのかなあ」
「頭で考えた組織論と実際活動をする組織とのギャップだろう」

 と、井上が言う。
「そうかもしれないネ。
でも、提案者のオレだけがひとりでぐらこん理想論を持っていたのかもしれない」

 村上は二人に悪そうに言った。
「ぐらこん支部のあり方というか、こうやりなさいという指示はCOMやぐらこん本部からないのか?」
 宮崎が井上に訊いた。
「ないよ」
 井上が答えた。
そして、
「村上さん。明日のぐらこん支部長大会で、他の支部の組織運営を訊いてみてもいいですか?」
「ああ、いいと思うよ。これから山形支部がどうあるべきか参考になると思うね」

 村上は答えた。
「『作画グループ』って関西支部だろ?
あそこは各漫研が存在しているんじゃないか?
それから漫研に加入していなくても、マンガ家になりたい人がぐらこん支部に所属することだって考えられるだろう?どんどん質問をしてみようよ」

 村上が井上に元気を出すように背中をたたいて言った。

「はじめ!
一日歩き疲れているんだから、もう寝なさい」

 井上の伯母のよし子が隣の茶の間から言った。



(2010年5月21日 記)



(文中の敬称を略させていただきました)
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