63回 手塚アニメ批評



「手塚先生にとって火の鳥はライフワークなんですものね!?」
たかはしよしひでは尊敬のまなざしで手塚治虫を見て言った。
「そうです。
ボクの作品はすべて子どものようなんですが、『火の鳥』はその中でも特別な作品なんです」

 手塚は背をまっすぐに伸ばして言った。
 手塚の傍にいる虫プロ商亊の大村は脚を組み直しながら、
 また、始まった、と、心の中で言った。
「手塚先生はただマンガの〆切日を守れないだけじゃないか。
ファンの前だから体裁ばかりつくって」

 と、大村はムッとした。

 その大村の態度を手塚は気付いた。
大村がなにを思っているのかもわかっていた。
「スタッフである大村氏なのに、どうしてボクの気持ちがわからないのか」
 大村が例外ではない。
手塚は急成長を続けてきた虫プロダクションや虫プロ商亊がどんどん自分の考えと違うところに行ってしまうことに不安を感じざる得ない。
「スタッフは作家集団ではないが、自分の分身として動いてこそ、「手塚プロ」であり、「虫プロダクション」や「虫プロ商亊」なんだ」
 と。
 手塚はとても悲しくなってきた。
「手塚先生の熱の入れようは、ボクたち読者にも伝わってきます」
 井上が言った。
「手塚先生、『火の鳥』の『黎明編』と『未来編』そしてこの『鳳凰編』は一段と秀作ですね。
 ボクが手塚先生なら、次のアニメラマは『火の鳥・黎明編』にしますね!!」

 井上の悪い癖が出てしまった、と、たかはしや鈴木和博は思った。
 井上は感動するとすぐに相手の立場になってしまうのだった。
調子にのってではなく、まじめにそうなるのだった。
だから、ひとによっては井上のひと言で自尊心が傷付けられてしまう。
本人が思いつかないことだったりすると、
「思いつかない自分が悪いのか!?」
 と、相手を怒らせてしまう。
 また、相手によっては井上の話を面白がって、なるほどそうだった!!
 と、喜ばれることもある。
しかし、それは稀にあるかないかだった。
 鈴木は手塚治虫が気分を悪くしたのではないかと、心配になって目を手塚からそらすのだった。
 
 手塚は黙って組んだ脚に両手をつかんで置いた。
「手塚先生のアニメは垢抜けてとてもセンスがいいのですが、絵に安定感がなく、マンガと比べるとどうしても荒い仕上げになっているような気がするんです。
千夜一夜物語などはたくさんのストーリーをつなぎ合わせた感が否めなかったです。
絵も北野英明さんや村野守美さんらがかわるがわる登場するし、日本テレビのバラエティ番組みたいでした。
手塚先生の底力というか、手塚先生の目指している完成度と違う方向性に行っているような気がしてならないのです。
 手塚先生のマンガの物語は奥が深く先が読み取れません。
それがボクたちには魅力です。
だけどアニメではそこのところがまだまだ出てこないのはなぜなんでしょうか?」

 そこまで言うかよ、と、鈴木は目をぎゅっとつむり歯を噛みしめた。



(2008年 2月29日 金曜 記)



ご本人たちの名誉のためにも、大村氏と手塚治虫先生の心理は作者の想像の範囲であることをお断りしておきます。

(文中の敬称を略させていただきました)
熱い夏の日第63回

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