58回 制作プロダクション



「手塚先生はこれからのマンガ界はどうなると予想されますか?」
 後藤和子が訊いた。
「あなたはどうなると思いますか?
あなたはいずれマンガ家になられるのでしょう?」

 手塚治虫は劇画家旭丘光志のアシスタントの後藤和子にそう言って質問を訊きなおした。
「手塚先生がおっしゃられるようにこのまま劇画が主力になっていくとは思いません。
私はもっとマンガのジャンルが広がっていくような気がします。」
「そうでしょ?
ボクもそう思うんです。
だってボク自身アイデアがいっぱい湧き出てくるんですからねえ。
あなたもそうでしょ?」

 手塚は顔をクシャクシャにして笑顔で言った。
「でもね、これからのマンガやアニメはかなりしっかりした専門性のあるスタッフが必要になってきますよ。
 いまはアシスタントはマンガ家になるためのステップですが、このアシスタント業が専門の仕事として認められる日は近いでしょうね」

 一同は手塚が言う意味がわからなかった。
「つまりね、アトムならアトムを描くスタッフが、お茶ノ水博士を専門に描くスタッフがいるんです。
 そのスタッフはアトムの性格や体型から言葉や動きまでも考えてしまうんです。
 今回のアニメラマ『クレオパトラ』では一部その実験をしています」
「そうなるとアニメーターやスタッフの力量が相当問われますね」

 大学生の伊原秀明が言った。
「でも、手塚先生はすでにマンガの登場人物に性格や特長を付けて、いろいろな作品に登場させておられますね?」
 鈴木和博が言った。
「いずれにしてもまだまだ不十分なんですよ。
問題はスタッフが作家の気持ちをどのくらい理解しているかなんですがね」
 一同は話がむずかしくなってきたこともあり、言葉がでなかった。
「先生!お話がむずかしくないですか?」

 と、大村が口をはさんだ。
「いや、大丈夫だよ。
ねえ、たかはしクンたち?」

 と、手塚は大村の静止を振り切るようにして話を続けた。
「あのネ、これからはマンガや劇画ブームという現象は落ち着き、文学や映画のように、マンガも多種多様にな形態になっていくと予想しているんです。
 そのときがいつくるかはボクたちマンガを描く側、供給する側といったらいいのでしょうか、つまりこちら次第なんです」

 たかはしや鈴木は深くうなずいた。
「ただのブームに浮かれて商業主義に走っては、いずれ社会からも読者からも見放されてしまうと思うんです。
それをボクは感じているから本格的なマンガスタッフが必要なんです!!」

 井上には手塚治虫の目の奥が光ったように見えた。
「手塚先生!ボクたちは先月先生とお会いするまで『手塚プロ』の(存在)ことは知りませんでした。
 あんなにたくさんの人たちが手塚先生を囲んで、これだけの作品を生んでいるとはびっくりしました。
 まんが展のときはたくさんのマンガ家の先生の原稿を見せてもらい、専門の原稿用紙に青線やプロダクション名が入っているんで、これらがプロの世界かとびっくりしました」

 井上が言った。
「そうなんです。
そういう基礎はボクが作ったんです。
いわゆるマンガの制作プロダクションです」



(2008年 1月 2日 水曜 記
 2008年 1月 5日 土曜 記)




(文中の敬称を略させていただきました)
熱い夏の日第58回

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