「そうそう、確信といっては大げさですけどネ。
ボクは小さいときに父親が手に入れたディズニーのミッキーマウスのマンガ映画を観ていたんです」
ニコニコして手塚が言った。
「へ〜ッ、それは戦前ですか?」
伊原が訊いた。
「そうです!」
一同がざわめいた。
戦前に手塚治虫はディズニーのミッキーマウスのマンガ映画を観ていたとは、なんということだろう……と、ビックリするのだった。
「確か十六ミリフイルムだったんですがネ。
それを観ていたのでアメリカの文化というか文明に対して脅威というか、日本とはレベルが違うって感じていました。
きっと、日本が戦争に負けるぞって、ボクは思っていただろうし、実際に連合軍に負けたと聞いたら、今よりはマシな生活が、マシな世界が待っているだろうって確信していたんでしょうネ」
手塚治虫は話を続けた。
「終戦後になって、映画館でディズニーの『ファンタジア』を観た。
ショックでしたねえ」
たかはしよしひでが、どうしてですか?と質問をした。
「ディズニーの『ファンタジア』は戦時中に制作されていたんだからね。
しかもカラーでだよ。
日本では考えられないことでしょう」
「それは本当ですか?」
「本当です。アメリカは日本の二十年、いや四十年先を進んでいたんですよ。
これでは日本がいくらがんばっても戦争には勝てないでしょうにね」
「手塚先生!いまの日本のアニメやマンガは、革命的な手塚先生の影響で世界に誇る文化に発展したと思っていますが……」
たかはしの熱弁に手塚は微笑みを浮かべて、ありがとうと答えた。
ところでこれではファンクラブの集いじゃないか。
石井氏に私の意向を伝えてあるはずなのに……。
手塚は不安になってきた。
一九七〇年……昭和四十五年八月八日。
まもなく終戦から二十五年を迎えようとした日本だった。
(2007年10月10日 水曜 記
2007年10月18日 木曜 記
2007年10月26日 金曜 記
2007年11月 7日 水曜 記)
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