少女はちょこんと椅子に座ってオレンジジュースを飲んでいた。
伊原秀明は気さくに宮崎賢治や鈴木和博とコムやぐらこんの話をしている。
たかはしよしひでは自分の連れてきた多田ヒロシ少年に声掛けをして、退屈させないように気を遣っていた。
虫プロ商亊の大村は井上から山形マンガ展の写真を見せてもらい、感想を述べていた。
そんな時間が三十分ほど過ぎた頃だった。
喫茶室のドアが開いた。
「やあ〜、ゴメンなさい!ゴメンなさい!!」
大きな声が喫茶室に響いた。
早足で手塚治虫が入ってきた。
待っていた全員が一斉に立ち上がった。
手塚治虫の身長は意外に高く感じた。
全員は見上げるように手塚の動きを見守った。
大村は手塚を正面の席に案内をした。
手塚が正面に着くと、たかはしが、
「手塚先生、今日はお忙しい中をありがとうございました!」
と、大きな声で挨拶をした。
それを合図に他の全員が、
「ありがとうございました!!」
と、大きな声で続いた。
「やあ、こんにちは!手塚です」
ニコニコ顔でベレー帽に右手を挙げて手塚は挨拶をした。
手塚が椅子に座ると、全員が椅子に座った。
「山形のファンは熱心でね。
なかなかサイン会が終らないんだよ」
目を細くしてクシャクシャした笑顔でそう言った。
「先生はマンガを描くから時間が掛かるんですよ」
大村はみんなに言った。
「火の鳥なんかリクエストがくるとたいへんだあ。
あの羽が時間が掛かるんです。
それからジャングル大帝の大人のレオね!」
楽しそうに手塚は話す。
そして手塚は出されたコップの水を飲んだ。
「オオ、手塚先生が水を飲んだぞお!」
たかはしが井上に言った。
「ホントだあ。
水を飲んだ。
神様も水を飲むんだなあ」
井上もビックリした。
大村はたかはしと井上に向かって、
「手塚先生にそれぞれ自己紹介をしてください」
と促した。
「はい、わかりました。
私はたかはしよしひでです。
漫画と怪獣の好きな同人『SFプロダクション』として組織し、後に『山形漫画研究会』に改名しました。同人誌『ステップ』は肉筆回覧誌で作品集です。
機関紙はガリ版で『ポップ』といいます。
昨年から山形漫画予備軍山形地区として活動をしてきました。
それは酒田市の村上彰司さんの熱い想いに共鳴したからです。
村上さんは『ぐらこん山形支部』をなんとか結成して、山形県のマンガ家志望者にマンガ家になるチャンスを作ること、また、マンガ同人会で山形にマンガ文化を育てることを考えていた方です……」
たかはしは自己紹介と自分たちがなぜ「ぐらこん山形支部」を作ったのかを熱く話した。
手塚治虫は真剣な眼差しでたかはしの話を聞いていた。
たかはしは隣の席にいる井上を指して、
「彼が井上はじめくんです。初代のぐらこん山形支部長です」
と、紹介した。
井上はちょこんと頭を下げた。
次に鈴木和博を紹介した。
手塚は一人ひとりに丁寧に頭を下げた。
たかはしの紹介は熱弁になっていった。
気分が高揚しているのか、顔も赤くなっていた。
(2007年 9月16日 日曜)
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