41回 八文字屋書店にて



 四人は八文字屋書店に着いた。
 書店の入口には「手塚治虫サイン会」の看板が堂々と立っていた。
 井上らはその看板の文字を一字一字目で追った。
「手塚治虫サイン会
 8月8日 午後一時より4時まで」

Γいよいよきたな」
 鈴木が緊張した面持ちで言った。
 井上はハンカチで顔の汗を拭き、黙って頷いた。

「井上センセイたちは先に入ってもらえっかス」
 たかはしが言った。
「人と侍ち合せをしてっから」
 そう言って、たかはしは歩道を人混みに消えて行った。

 井上と鈴木、宮崎の三人はゆっくりと書店の中に入って行った。
 広い店内は紙とインクの臭いで覆われていた。たくさんのお客が所狭しと押合って見える。米沢の書店では見られない光景だ。
 ごったがえした店内を三人は恐る恐るゆっくり歩いた。店内正面に階段が見えた。
 階段には長蛇の列が二階まで続いていた。
二階正面には机が置いてあり、そこにも立て看板「手塚治虫先生サイン会」がド〜ンと目立っていた。
「あそこに手塚治虫先生が座るんだ」
 宮崎賢治がポツンと言った。
「さあ、行ってみよう」
 鈴木和博が吸い込まれるように列の左側を昇って行った。それに続く井上と宮崎だった。
 列に並んでいるのは親子連れと十代や二十代の若者が目立つ。その中に所々に中年男性もいた。手塚治虫の幅広い人気を物語っている。
 みんな八文字屋書店の袋を持っていた。そう、この書店で手塚マンガの書籍を購入した者が、このサイン会の資格があるのだった。

「オレたちには並ぶ資格はないんだ」
 淋しそうに鈴木が言った。
「いいべした。後で先生に会うがら、そんどきにサインをしてもらうべ」
 と、宮崎は自分たちが持参した手塚の本を思い出して言った。
 
 階段を昇りきるとサイン会の机の傍に、一見で関係者とわかる都会風の背広を着た小太りの男性とスポーツ刈りが似合うカッコいい男性が立っていた。
 井上はスポーツ刈りの男性に声をかけてみた。
「あの〜、手塚治虫先生の関係者の方ですか?」
 すると待ってたとばかりに、
「あっ! 井上くん? ぐらこんの井上くんですね?」
 スポーツ刈りの男性は目を開いて言った。
 井上はハイ! と言って気を付けのポーズをした。
鈴木も宮崎もつられるように気を付けのポーズをした。

「手塚先生はいま食事中です。サイン会が終ったら井上くんたちと話をすることを楽しみにしています。そうですね、(周りを見渡して)あの向こうのレコード売り場の側にある喫茶コーナーで話し合いをしましょう。また後でね」
 気さくな人だった。そして、
「遅れました。ボクは虫プロ商事の大村です!石井編集長から井上クンたちのことは伺ってますから……」
 と、気持ちよく挨拶をしてくれた。



(2007年 3月18日 日曜 記
 2007年 3月20日 火曜 記)




(文中の敬称を略させていただきました)
暑い夏の日第41回

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