39回 長い髪の乙女



イラスト:たかはしよしひで

「ああ、がっかりだなあ〜っ」
 井上はじめは映画館から出ると開口一番に言った。
「なにがやッス?」
 たかはしよしひでが井上に訊いた。
「だって、たかはし先生の好きな石森章太郎先生の原作だっていうけど、キャラクターデザインから内容から、石森先生の作品とは関係ないじゃないですかあ。
おまけに動きがリミデットでは、テレビアニメと同じでしょう?
東映動画の名に恥じます」

 井上は歩きながら大きな声で言った。
「んだがしたあ?(そうかなあ)井上センセイは東映動画の革新を理解していないだけだべえ?
タイガーマスクとひみつのアッコちゃんはどう批評する?」

 たかはしが問う。
「あれはすばらしいよね。
タイガーのあの太い線はアニメにはなかったことだし、プロレスなのに動きをぎこちなくすることで、スピードと迫力を強く感じさせた画期的なアニメだ!」

 と、井上が答えた。
「アッコちゃんもテレビアニメにしては絵が安定しているし、内容も完成度が高く、申し分ないよ!」
 と、続けて言った。
「んだべっす!東映動画は虫プロと違って絵にも物語にも安定感があるんだっす。
虫プロは斬新な分だけ未熟で不安定な作画だべえ〜」

 たかはしの分析は確かなものだった。
 「タイガーマスク」と「ひみつのアッコちゃん」はテレビアニメをそのまま映画版にしただけだが、大きなスクーリンに映し出されても画面の汚れや作画の雑さは目立たない。
 虫プロの「千夜一夜物語」とはあまりにも出来映えとしては対照的だった。
「東映の底力だったなネ!?」
 笑いながらたかはしは言った。
 
 映画館のある七日町を大通りに向かう途中に喫茶店「ポール」があった。
 たかはしはそこで昼食をしようと井上らを中に入れた。
「ここがポールかあ!?」
 井上と鈴木、宮崎は同時にそう言った。
 
 山形放送ラジオで毎週日曜日の午後からリクエスト番組があり、その番組提供がこの喫茶店ポールだった。
 毎週のようにこの番組から流れてくるポップスの曲は、当時の高校生には新鮮であったから、多くの若者に支持されていた番組だった。
 この番組では席番号が抽選され、その当選番号の席のコーヒーや食事が無料になるコーナーがあった。
また、リクエスト者の中から抽選でコーヒー券のプレゼントがあったので、それらとても耳障りがよく、若者たちには一度は行ってみたい喫茶店になっていた。
 
 ポールの中に入るとお昼時のせいか、二十席位の席はほぼ満席の状態だった。
 たかはしがキョロキョロしていると、奥の窓際から白い人影が席を立ち上がった。
 たかはしはその白い人影に軽く右手を挙げて、大股で歩いてその席に行った。
 井上らもたかはしに続いた。

「どうもッス、どうもッス!!」
 と、ニコニコ顔のたかはしはその白い人影に声を掛けた。
「こんにちは!お久しぶりです!!」
 白い人影がそう言った。
 喫茶店のボーイが水の入ったコップを持ち、
「五人様ですね?
それなら、こちらの席にどうぞ!」

 と、窓際の向かいの席に居る二人の客の六人席を案内した。
 二人はちょうど帰るところだったから、すぐに席を移ることができた。
 窓際で強い逆光だった白い人影が席を移った。
 その瞬間、いい香りが流れた。
 そして光を浴びた瞬間に、白い人影の正体が現れた。

 背中まで伸びた黒髪に大きな二重の目。Vの字の口元。白いスーツでミニスカートを上品に着こなした乙女がその正体だった。
「あらためて、こんにちは!長岡孝子です」
 少女はそう言って微笑んだ。



(2007年 8月14日 火曜 記
 2007年 8月18日 土曜 記)




(文中の敬称を略させていただきました)
暑い夏の日第39回

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