27回 相 談



イラスト:たかはしよしひで

 村上からの電話はまだ続いた。
 
「井上クン、あのな、真崎守先生がアシスタントを探しているんだ。
それで先生と話をしていて思ったんだけど、ぐらこん山形からアシスタントをおくり込んではどうかな?」
「はあ?」

 井上には村上のいう意味がよく呑み込めなかった。
「村上さん、おくり込むってどういう意味ですか?」
「たかはしクン!たかはしセンセイをどうかと考えたんだ」
「たかはしよしひでセンセイを真崎先生のアシスタントにですか?」
「そうだよ!」

 村上は明るく答えた。それは展望があるような声だった。
 村上さんって、すごいことを考える人なんだと、井上は一瞬思ったが、それはおもしろいと同調した。
「村上さん!支部長としても賛成です。最近のたかはしセンセイの絵は真崎先生の影響が強いですし、たかはしセンセイならいま直ぐでも(アシスタントとして)使いものになりますよね」
「おいおい支部長としての発言は流石に自信にみなぎっているなあ(笑)。
井上クンもそう思うんだったら早速たかはしセンセイに話してみるよ」

 電話の向こうの村上が、あのやさしくニコニコした笑顔が一層ニコニコしているようだった。

「それから井上クン、8月8日に山形で手塚治虫先生と会う件だけどね。
ぼくは残念ながら行けないから支部長のキミとたかはしセンセイに任せるのでよろしく頼むよ。
石井編集長からは、参加人数はぐらこん山形の幹部だけにしてほしいということだった。
理由は手塚先生が井上クンらとじっくり話をして、今後のことを相談したいらしいんだ」
「相談?ですか……」
「そう、実は先の真崎先生のアシスタントの件もそうなんだけど、石井編集長からはいろいろ相談があってね。追々に話すけど、手塚先生も井上クンに話があるらしいからしっかり聞くようにね」

 村上はたかはしセンセイにアシスタントの話をするからと言って電話を切った。

 井上が茶の間にある電話の受話器を置くと、祖父の長吉が扇風機を背にして団扇で浴衣の中をバタバタと仰いでいた。
「はじめくん、なにがあったのが?酒田の村上さんからのようだげど……」
 長吉は井上に訊いた。
「ウン、中山のたかはしセンセイをプロのマンガ家のアシスタントにどうかって?」
 井上が答えた。
「おおっ、いい話じゃないかあ。あの人だったら大丈夫だろう。身体も丈夫そうだしな!
はじめくんはダメだな。まだ高校生だし体力がないからな」

 長吉は何かを警戒するように井上に言った。
「たかはしセンセイだって高校生だよ」
「あの人は来年春に卒業だべ?」
「8日に手塚治虫先生と山形で会うことになった」

 井上は長吉の傍に座りながら言った。
「おお、手塚先生とまた会うのか?」
 ビックリするように長吉が言った。
「ウン、なにか話があるって。今後のことを相談したいって」
 井上のその言葉に長吉はお茶をブワーッと噴出した。
「なにしてんのよ〜汚いごとなあ!!」
 いつの間にか祖母のふみが現れていた。そして傍に置いてあった手拭を長吉に投げた。
「ばさま(婆様)!投げて渡す奴がいるかあ〜」
 と長吉はふみを大きな声で怒鳴った。
「冗談じゃないぞ、ばさまよく聞け〜手塚治虫先生がはじめくんに相談にくるってよ〜」
「なんだって〜、それはいけない!!はじめ、どんな相談か知らないが話しに乗ってはいけないよ」

 長吉もふみも興奮して井上に言い寄った。
 井上はただキョトンとしてその光景を見ていた。
 
 一九七〇年は東京が一層近く感じてきた。今度は東京の方からぼくたちに近付いてきた。井上はそう思った。



(2006年12月24日 日曜 記)




(文中の敬称を略させていただきました)
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