ムンムンする暑さは午後からも変わらなかった。びる沢湖から見た空は灰色だった。
その空を見た井上は、今月訪れた東京の空に似ていると思った。
「そう、手塚治虫先生やコムの石井編集長と会ったあの日も東京は雨だった」
井上は、つい今月のあたまの出来事なのに、もうずいぶん時間が経ったような気がした。
「じゃあ、井上は将来なにになりたいんだ?」
と、近藤重雄が訊いた。
「夢はあるけど、まだ、話す内容ではないので……」
井上はそう言って言葉を濁した。
「やっぱりマンガ家だろう!?隠すなよ」
近藤は井上の目をしっかりと見て言った。
「だからそんなこと考えたこともないって……そうそう、近藤先輩や絹代さんは高校を卒業したらどうするんですか?」
今度は井上が、近藤と小山絹代に向けて質問をした。
「オレかい?オレは大学に進学する!!」
前髪を垂らしてさわやかに答えた。その瞬間近藤の目がキラリと光った。
「私は就職だわ」
小山が恥ずかしそうに言った。
「小山〜もったいないぞ!お前こそ進学すべきだよ。だって試験は学年で一番だからなあ」 近藤は大きな声で言った。
「私はもういいの。交通公社に就職しようと考えて、兄にも相談しているから」
小山はそう言った。小山の兄も交通公社に就職しているから、兄の仕事を間近にみていてそう考えたと言った。
「大学ばかりが進路じゃないけど、小山には大学にいってほしいなあ……そうだろう、井上?まさゆき?」
近藤の問いに、井上とまさゆきは黙ってうなずいた。
「オレは自衛隊にでも行くかなあ」
突然、まさよしが言った。
「自衛隊はやめとけ!」
近藤が言った。
「なんでや〜。いいべした。飯はタダだし、寮にも入れるし、男っぽい仕事だからオンナにももてっぺ」
まさよしは唾を飛ばしながら荒い言い方でそう言った。
「お前なあ!よく考えてみろ。自衛隊は軍隊だぞ!?有事があったらどうするんだ。それより平和国家を守るのは非武装中立だぞ!」
近藤はまじめに諭すように言った。
「オレは頭悪いがら近藤先輩の言ってることがわがんね!!フン、いいふりして」
まさよしは吐き棄てるように言った。
「はじめくんの夢って何なの?」
小山が訊いた。
井上は顔を真っ赤にして、
「し・しか・イヤ、まだ言えない」
と、言った。
四人は曇り空の中を歩いていた。
汗でシャツは濡れていた。蒸し暑さの中なので気にしないで歩いた。
「帰りはバスにすっぺ(しよう)」
と、まさよしが言った。
バス停で米沢行きに乗ると、四人はすぐに眠るのだった。
- (2007年 3月26日 月曜 記)
- ■
|