四人は、大通りから左の坂道を道なりに歩いていった。
 いつでも雨が降ってきてもいい曇り空だった。
「いつまで歩くんだよ〜」
 と、まさよしが大声を上げる。黙って着いてこい、と近藤が言う。小山と井上は黙って歩いていた。 

 坂道は山に向かって続く。緩やかなカーブが数回続き、大きな看板と売店が見えた。
 看板には「びる沢湖」と書いてあった。
「着いたぞ!さあ、一休みしよう」
 近藤が言った。井上らは額の汗を拭きながら、周囲の景色を見渡した。
 そんなに高くない山並みの中に、その湖はあった。ただ、連日の猛暑のためか湖の水量は大幅に減っていた。湖のあちこちが日干しになり、底には黄土色の土が見えていた。


 売店から中年の女性が出てきた。売店のおばさんだった。そして四人に声を掛けてきた。
「いらっしゃい!あんたたちどこからきたの?」
「米沢です」

 と、小山が笑顔で応えた。
「あいにくだね、この雨雲だし、湖の水はいつもの三分の一しかないんだもん。これから雨が降っても知れたもんだげど、田畑のためになるがら雨は欲しいよ」
 と、売店のおばさんは言った。
 四人はそれぞれビン入サイダーを買った。売店の長椅子に腰掛けて、景色を見ながら休憩をした。
「まんが展の成功と慰労を兼ねたミニ遠足だが、こんなに淋しい湖だとはちょっとがっかりだな」
 と、近藤が言った。
「でも、本当に猛暑が続いたから、しょうがないんじゃない。それより井上くん、まんが展お疲れ様!」
 と、小山が言った。
「お笑止な!(ありがとう)なんだかアッという間の出来事だったなあ」
 井上は、まんが展が終った一昨日までのことが数ヶ月前の出来事のように思えてならなかった。ただ身体に少しだけ疲れが出てきたようなので、相当の働きをしたのだと思った。
「あんなにたくさんの人が観にきたんだからすごいよな」
「私も手塚治虫や、大好きな石森章太郎のサイボーグ009の原画を時下に観ることができたんで、とても楽しかった」
「準備もみんなと仲良くできたしな」

 と、近藤と小山が言った。
「ああ、オレは迷惑だった。なんで生徒会役員があんなごとしなんねなよ〜(しなければならないのか)」
 まさよしだけが異論を言った。
「まさよしなんて、一、二回しか手伝わないくせに大きな口を利くのね」
 と、小山がきつい口調で言った。
「小山さんだって、なにしたなあや?ただ居ればいいってもんでねえ〜べ」
 まさよしの反撃に小山は感情を害した。
「だから、まさよしなんか連れてこなければいいのに……」
 と、言った。
「うるせ〜。先輩だからって威張るなよ!」
 と、まさよしが懲りないで言い張った。
「まさよし!言い過ぎだ。後は止めろ!!」
 と、近藤が注意をすると、まさよしは亀のように首を縮めて、サングラス越しにバツの悪そうな顔をした。 

 売店のおばさんは他に客もいないこともあってか、四人の前でひとり言のようにびる沢湖の位置や湖にまつわる話を始めた。話が終ると、
「あんたたちせっかくきたんだから、ボートに乗っていったらいいべ」
 と、ボート乗りを誘った。
 よし、行きましょう!と、小山が一番最初に反応した。近藤も行こうと言った。井上とまさよしは困った顔をして黙っていた。
「井上、まさよし、二人ともどうした?ボートは嫌か?」
 と、近藤が訊いた。井上はボートを漕いだことがないと言った。まさよしは泳ぎに自信がないと言った。
「アハハハッ……、二人とも男のくせにだらしないのね」
 と、小山が母親のような口ぶりで二人を笑った。
「大丈夫だから、先ずはボートに乗ろうよ」
 と、近藤と小山は井上とまさよしの背中を後ろから押して、ボート乗り場に向かった。 

 売店のおばさんは井上とまさよしを一隻のボートに強引に乗せた。
「なんで、オレが井上と乗るんだ〜、オレはまだ死にたくない〜」
 と、まさよしが大声で怒鳴った。
「近藤先輩!オレもまさよしとは嫌だ〜」
 と、井上は鳴き声に近い声を出して、ボートから飛び降りようとした。
「ホラホラ立ってはダメだろ〜。二人とも男なんだから、覚悟を決めろ!」
 と、売店のおばさんが二人を制止した、

(2006年 9月10日 日曜 記)



(文中の敬称を略させていただきました)
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